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売上高経常利益率の目安とは?業界平均や低いときの対処方法を解説

企業の経営状況を判断する際、売上や利益の絶対値だけでは十分とは言えません。特に、売上高に対してどれほど効率的に利益を出せているかを示す「売上高経常利益率」は、会社全体の収益力を評価する上で欠かせない指標の1つです。

当記事では、売上高経常利益率の定義・計算方法から、業界ごとの目安、分析手法、低い場合の改善策までを解説します。「同業他社と比べて利益率が低い」「昨年より利益が減っている」などの悩みを抱える経営者や財務・会計・経理担当の方は、この記事を参考に実践的な改善の第一歩を踏み出してください。

 

1.売上高経常利益率とは?

売上高経常利益率とは、売上高に対する経常利益の割合を示す指標であり、企業の全体的な収益力を把握する際に用いられます。経常利益は、本業から得た営業利益に加えて、利息収入などの営業外利益を足し、支払利息などの営業外費用を差し引いた金額です。この指標を見ることで、企業が事業活動だけでなく、資金運用や借入管理を含めた業務全体でどれだけ効率よく利益を上げているかが分かります。

また、売上高経常利益率の推移を確認すれば、利益の安定性や継続性の有無、経営改善の効果、競合他社との収益性の違いなども把握できます。売上高経常利益率は、経営成績の客観的な判断材料として、決算書分析や金融機関への説明資料にも活用される重要な指標です。

 

1-1.売上高経常利益率の計算式

売上高経常利益率は、次の式で求められます。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100

たとえば、売上高が150億円、経常利益が50億円であれば、計算は「50÷150×100=33.3%」となります。ここでの「経常利益」は、営業利益に営業外収益を加え、さらに営業外費用を差し引いて算出します。営業利益は、売上高から原価・販売費・一般管理費を差し引いたものです。営業外収益には受取利息や配当金などが、営業外費用には支払利息などが含まれます。

 

2.【業界平均】売上高経常利益率の目安

売上高経常利益率は、業種によって大きく異なるため、一律の基準で目安を出すことは簡単ではありません。以下は、令和5年度決算実績に基づく、業種別の売上高経常利益率の平均値をまとめた表です。

業種 法人の売上高経常利益率の平均値
法人企業_計 4.37%
建設業 4.71%
製造業 5.06%
情報通信業 7.04%
運輸業、郵便業 3.44%
卸売業 2.72%
小売業 2.53%
不動産業、物品賃貸業 12.61%
学術研究、専門・技術サービス業 10.30%
宿泊業、飲食サービス業 3.47%
生活関連サービス業、娯楽業 3.13%
サービス業(他に分類されないもの) 4.78%

出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査 / 令和6年速報 3.売上高及び営業費用」

たとえば、製造業や建設業では4~5%前後が平均である一方、不動産業では10%を超える高水準になることもあります。反対に、小売業や運輸業では2~3%が適正水準とされることも多いです。業種ごとの粗利益率や経営構造が影響するため、自社の売上高経常利益率を評価する際は同業種の平均値と比較する必要があると言えるでしょう。

 

3.売上高経常利益率の分析方法

売上高経常利益率を経営活動に生かすには、ほかの指標や過去実績、業界平均と比較して現状を多角的に分析することが大切です。売上高経常利益率を分析する際は、以下の観点から検討しましょう。

 

3-1.損益計算書のほかの項目と比較する

売上高経常利益率と損益計算書におけるほかの利益指標と比較することで、本業とそれ以外の収益・費用のバランスを把握できます。損益計算書にはさまざまな項目がありますが、営業利益(売上高営業利益率)と比較するのが一般的です。

たとえば、営業利益が赤字でも、営業外収益により経常利益が黒字であれば、資産運用などで補填されている可能性があります。反対に、営業利益が黒字にもかかわらず、支払利息などの営業外費用が重いために経常利益が赤字なら、財務体質に課題があると言えるでしょう。こうした分析を通じて、収益構造の強みや営業活動の課題が見えれば、経営改善に向けた戦略立案のヒントになります。

 

3-2.当期予算や昨年度の業績と比較する

予算と実績を照らし合わせることで、どの部分に乖離が生じたのか、利益構造の問題点を明らかにできます。売上高経常利益率だけでなく、営業利益率や粗利益率なども併せて算出しておくと、より多角的な分析が可能です。

また、前年度との比較では、利益率の推移から改善傾向や悪化の兆しを把握でき、変動要因の特定にもつながります。四半期や半期などの短期間で区切って比較すれば、経営上の小さな変化にも早期に対応できるでしょう。

 

3-3.同業者や競合他社と比較する

企業の財務諸表には売上高や経常利益、売上高当期利益などが記載されているため、上場企業であればIR資料や有価証券報告書を使って簡単に数値を把握できます。これにより、自社の収益性が業界内でどの程度の水準にあるのかを客観的に評価することが可能です。

一方、中小企業の情報は公開されていないことが多いため、必要に応じて帝国データバンクや東京商工リサーチなどを活用するのも1つの方法です。同業や競合と比較することで、自社の強みや弱点、改善策が見えてくるでしょう。

 

4.売上高経常利益率が低い場合の対処方法

売上高経常利益率が同業他社に比べて著しく低い場合は、経営構造の見直しが必要です。ここでは営業外収益・営業外費用に注目し、利益率アップを目指すための具体策を紹介します。

・投資資産や不動産の活用

営業外収益の向上には、余剰資金の活用が有効です。たとえば、他社株式などの投資資産を増やせば、受取配当金によって営業外収益が増加し、経常利益を押し上げる要因となります。また、遊休不動産を駐車場や倉庫として賃貸活用することは、不動産賃貸料収入の増加につながります。ただし、過度な投資は資金繰りを悪化させる可能性があるため、資金バランスを考慮した運用が必要です。

・借入金の適正化

借入金が多いと、支払利息などの営業外費用が増加し、売上高経常利益率を圧迫します。その際は資本金の増加や余剰資産の売却、売掛金の早期回収などを通じて、借入依存度の低減を図るようにしましょう。成長期でやむを得ない借入がある場合でも、低金利融資への借り換えや繰上返済などを検討し、利息のコスト負担を削減する努力が大切です。

・債権回収の適正化

手形を満期前に割引して現金化すると、手形売却損などの営業外費用が発生する可能性があります。手形売却損は、本来得られるはずの利益を目減りさせる要因の1つです。そのため、手形の満期管理を徹底して満期前の換金を避けるとともに、取引先との条件見直しやほかの売上債権の回収強化を行い、キャッシュフローの健全化を図るようにしましょう。

これらの施策を通じて営業外損益の改善を図ることが、売上高経常利益率の底上げにつながります。財務体質の見直しとともに、収益力を高める経営戦略を継続的に実行しましょう。

 

まとめ

売上高経常利益率は、企業の収益性や経営効率を総合的に示す重要な指標です。自社の数値だけを見て判断するのではなく、業種ごとの平均値や過去実績、競合他社の状況と比較することで、強みと課題を客観的に把握できます。

売上高経常利益率が低い場合は、営業外収益の強化や借入金・債権管理の見直しといった利益率改善策が有効です。経営利益を意識することは、持続的な収益力の強化と財務体質の安定につながります。当記事で紹介した分析手法や改善ポイントを自社の経営に生かし、将来的な成長の基盤を整えましょう。