コラム
少額減価償却資産の特例とは?要件や適用する際の注意点を解説
中小企業の経営者や個人事業主の多くが抱える悩みの1つに、「少額の設備投資や備品購入をどのように経費計上すればよいのか」という問題があります。通常の減価償却では数年にわたって費用化する必要があり、会計処理や税務処理の観点から不便を感じる方も少なくありません。こうした状況に対応する仕組みが「少額減価償却資産の特例」です。
当記事では、少額減価償却資産の特例の概要や一括償却資産との違い、法人・個人事業主それぞれの要件、注意点を整理し、賢く制度を活用するためのポイントを解説します。
1.少額減価償却資産の特例とは
少額減価償却資産の特例とは、事業者が取得価額30万円未満の減価償却資産を一定期間内に取得し、事業に使用した場合に認められる制度です。
通常、減価償却資産は耐用年数に応じて分割して経費化しますが、少額減価償却資産の特例を使えば取得価格を一括して損金に算入できます。対象となるのは法人税法上の取り扱いで、適用期間は2006年4月1日から2026年3月31日までに取得した資産です。
1-1.減価償却資産とは
減価償却資産とは、事業に使用される建物や建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具など、時間の経過とともに価値が減少する資産を指します。減価償却資産は取得時に全額を必要経費とするのではなく、耐用年数に応じて分割して各年分の経費に計上します。たとえば、法定耐用年数は財務省令の別表で定められており、その期間に応じて「定額法」や「定率法」などの方法で償却します。
ただし、土地や骨とう品のように価値が減少しない資産は適用対象外です。また、取得価額が10万円未満の減価償却資産は一括で経費計上でき、10万円以上20万円未満の資産は一括償却資産として扱うことが可能です。
1-2.少額減価償却資産と一括償却資産の違い
少額減価償却資産と一括償却資産は、いずれも少額の固定資産を効率的に経理処理するための償却方法ですが、仕組みや適用範囲に違いがあります。少額減価償却資産は、取得価額が10万円以上30万円未満の資産を対象とし、青色申告を行う中小企業者等のみが利用できます。購入した年度に全額を損金算入できる点が大きな特徴ですが、年間300万円までという上限があり、固定資産税の課税対象にもなります。
一方、一括償却資産は取得価額が10万円以上20万円未満の資産が対象で、法人・個人を問わず誰でも利用できます。資産をまとめて管理し、3年間で均等に償却する仕組みで、事業年度ごとの上限はなく、固定資産税の課税対象にもなりません。事務処理を簡略化する恒久的な制度として位置づけられています。
2.少額減価償却資産の特例の対象になる要件
少額減価償却資産の特例は、中小企業や青色申告を行う個人事業主を対象に設けられており、利用には一定の要件を満たす必要があります。ここからは、法人と個人事業主それぞれに求められる適用条件について解説します。
2-1.法人の場合
法人が少額減価償却資産の特例を利用できるのは、青色申告書を提出する中小企業者や農業協同組合等に限られます。具体的には、常時使用する従業員の数が500人以下の法人が対象であり、特定法人の場合は300人以下であることが条件です。特定法人とは、資本金が1億円を超える法人や通算法人、投資法人、特定目的会社などを指します。
対象資産は取得価額が30万円未満の減価償却資産であり、適用できる合計額は1事業年度につき300万円までと定められています。事業年度が1年未満の場合は、月割りで計算した金額が限度額となります。また、2022年4月1日以降に取得した資産については、主要な事業でない貸付用に供するものは対象外とされています。
2-2.個人事業主の場合
個人事業主が少額減価償却資産の特例を利用できるのは、青色申告を行っている場合に限られます。青色申告者であることが前提のため、白色申告者は少額減価償却資産の特例の適用を受けられません。
対象となる資産は取得価額が30万円未満の減価償却資産で、パソコンやモニター、事務機器、工具などの事業用資産が含まれます。ただし、1年間に経費算入できる合計額には上限があり、300万円を超える部分については特例が適用されません。事業年度が1年未満の場合は、月数に応じて上限額が按分されます。また、2022年4月1日以降に取得した資産のうち、主要な事業以外で貸付に供するものは対象外とされている点に注意が必要です。
3.少額減価償却資産の特例はいつまで有効?
少額減価償却資産の特例は、以前から導入されている時限的な制度で、現行では2026年3月31日まで適用が認められています。2024年度税制改正では、従業員数が300人を超える一部の法人を対象から除外する見直しが行われる一方、期限は2年間延長されました。
その背景には、インボイス制度導入などにより事務負担が増える中で、償却資産管理の負担軽減や事務効率向上を支援する目的があります。今後も延長される可能性はありますが、現行の期限を意識して活用を検討することが重要です。
4.少額減価償却資産の特例の注意点
少額減価償却資産の特例を適用する際は、ほかの制度との併用制限や判定基準、年間上限額などに注意が必要です。ここからは、少額減価償却資産の特例に関する具体的な注意点について解説します。
4-1.特例と少額の減価償却資産・一括償却資産は同時に適用できない
少額減価償却資産の特例は、取得価額10万円未満の少額減価償却資産としての処理や、取得価額20万円未満の資産に対する一括償却資産制度との重複適用はできません。また、租税特別措置法上の特別償却や税額控除、圧縮記帳といった制度とも同時利用は不可です。
そのため、適用を検討する際は「通常の減価償却」「一括償却資産」「少額減価償却資産の特例」のいずれかを選択する必要があります。自社の資産の取得費用や利用目的に応じて、どの制度を使うのが有利かを事前に検討しましょう。
4-2.税込みと税抜きで判定が違う
少額減価償却資産の特例における判定基準は、会社が採用している経理方式により異なります。税込経理方式を採用している場合は消費税込みの金額で取得価額を、税抜経理方式を採用している場合は消費税を除いた金額で判定します。
たとえば、税抜280,000円(税込308,000円)の資産を購入した場合、税抜経理を採用していれば取得価額28万円として特例の対象になります。しかし、税込経理を採用している場合は30万円を超え、特例を適用できません。このように、同じ資産でも経理方式により特例が使えるかどうかが変わるため、自社がどちらの経理方式を採用しているのかを必ず確認しましょう。
4-3.1年間の上限額は300万円になる
少額減価償却資産の特例は、1事業年度あたりの取得価額の合計が300万円を限度として適用できます。たとえば、27万円の資産を12個購入した場合、合計324万円となりますが、特例の対象となるのは11個分(297万円)までであり、残りは通常の減価償却処理が必要です。
また、事業年度が1年に満たない場合は上限額を月割で計算します。たとえば、6か月の事業年度であれば、150万円が償却限度額です。上限を超えた資産については特例を利用できないため、年間の取得計画を立てる際は、資産ごとの金額や購入時期を踏まえて上限を意識した管理が求められます。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、中小企業や青色申告を行う個人事業主が、取得価額30万円未満の資産を即時に損金算入できる制度です。ただし、一括償却資産や10万円未満の資産の取り扱いとは併用できず、適用額は年間300万円が上限のため、制度を理解した上での利用が必要です。
また、税込経理か税抜経理かによって判定基準が異なる点や、貸付資産が適用外となる点も注意しなければなりません。少額減価償却資産の特例を適切に活用すれば、経費計上を柔軟に行うことで、資金繰りの改善や節税効果が期待できます。自社の資産購入計画や会計方針を確認し、適切に制度を取り入れることで経営の安定化を図りましょう。